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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)1397号 判決 1965年3月25日

控訴人 立正信用組合

理由

一、(証拠)を綜合すると、昭和三二年二月二七日控訴人と被控訴人水門との間に、金一〇〇万円限度の手形貸付取引契約が成立し、これに基き同被控訴人の負担すべき債務につき被控訴人松本及び原審相被告田路義一の両名が連帯保証をなし、被控訴人らより控訴人に甲第一号証の約定書を差入れたこと、右契約による債務は被控訴人水門が右約定書に基く借用金である旨を明記して振出す約束手形の金員とし(現実に借用して手形を振出す場合であると、既存債務を承認して手形を振出す場合であるとを問わない)、借用金の利息は日歩五銭、遅延損害金は日歩一〇銭とすることと定めたことを認めることができる。被控訴人松本は単純な金一〇〇万円借受けの保証をしたものにすぎない旨主張するけれども、同人の内心的意思ないし被控訴人水門との約束如何にかかわらず、前記趣旨の契約文書と解せられる約定書に捺印して控訴人に差入れた以上、前認定の契約につき保証したものと認むべく、たとえ被控訴人水門の言を信用して約定書の文言を読まないで捺印したものとしても責任を免れえないことはいうまでもない。また被控訴人松本は、相保証人田路義一の保証が有効であるものと信じて保証したものであるところ、同人の保証は信用組合法三八条、商法二六五条の規定により無効であるから被控訴人松本の保証は要素に錯誤があり無効である旨主張するけれども、仮に右主張のような錯誤があつたとしても、単なる縁由の錯誤であることが明らかであり、且つ田路の保証が有効であることを条件として保証する旨の意思が控訴人に表示されたことを認むべき証拠がないから、右主張は理由がなく、また被控訴人松本の保証は詐欺によるものであるから取消しうべきものであるという主張も、主張自体具体的でない上に、欺かれた保証したものであることを認むべき証拠もないから全く理由がない。

二、被控訴人水門が、前示貸付契約に基き控訴人から、昭和三二年二月二八日から同年四月一二日までの間に三回にわたり合計金八三五、〇〇〇円の貸付を受けたこと、そのほかに同被控訴人が控訴人に対し右契約成立以前に発生した金九二万円の手形による借用金債務を負担していたこと、同年五月中同被控訴人が右新旧債務合計金一、七五五、〇〇〇円につき、金額一七〇万円と金額五五、〇〇〇円の二口に分けて二通の約束手形を振出し控訴人に交付したことは、いづれも被控訴人らの自認するところである。控訴人は右一、七五五、〇〇〇円金額を前示貸付契約成立後に貸付けた旨主張するけれども、なんらの立証もなく、却つて原審、当審における被控訴人水門本人尋問の結果によれば内金九二万円は被控訴人ら主張の如く旧債であることを認めることができる。しかしそれはともかくとして被控訴人水門が右一、七五五、〇〇〇円全額を前示約定書に基く借用金債務として承認し、これにつき前示一七〇万円と五五、〇〇〇円の二通の約束手形を振出したものであることは原審、当審における控訴人代表者尋問の結果と弁論の全趣旨に徴し明らかである。

三、その後被控訴人水門が昭和三二年八月二七日控訴人に対し右債務の内へ金一〇〇万円を支払つたことは当事者間に争がない。被控訴人らは、右一〇〇万円は前示約定書に基く被控訴人松本らの保証債務を消滅せしめる約旨の下に支払つたものである旨主張するに対し、控訴人はこれを争い、その大部分は約定書の極度額を超過する保証なき債務部分につき支払われたものである旨主張するので考えるに、原審証人水門栄美子の証言、田路義一の原審における被告本人としての、当審における証人としての各供述、原審、当審における被控訴人水門及び当審における控訴人松本各本人尋問の結果に、支払金額が約定書の極度額と同額である点を綜合して考えると、被控訴水門は被控訴人松本らに前示保証を依頼するに当り、事業資金として金一〇〇万円程入用につき控訴人より融資を受けるものであるが、三カ月位の間には債務を返済して保証を抜く旨約し、その約束の下に保証の承諾をえたものであるところ、三カ月を過ぎても債務を返済しなかつたので、被控訴人松本らより早く返済して保証を抜くようやかましく請求されており、また田路は控訴人組合の理事であつたため、さような地位にある者が長く保証をしていることは不都合であるということから、組合の方からも早く保証を抜いて貰うようにして欲しいとの注意を受けていた。さような事情から被控訴人水門としてもいつまでも放置しておくわけには行かず早く被控訴人松本らの保証債務を消滅せしめる必要に迫られた結果、昭和三二年八月二〇日頃取引先の深沢農機株式会社から同社振出の金額五〇万円の約束手形三通の融通を受け、これを控訴人に依頼して同月二七日割引を受け、その割引金のうち金一〇〇万円を前示約定書に基く被控訴人松本らの保証責任を消滅せしめる約旨の下に支払つたものであることを認めることができ、原審及び当審における控訴人代表者小川登の供述中右認定に反する部分はにわかに措信し難い。同人は保証のある債務と保証のない債務とある場合に保証のある債務を先に消滅せしめることはない旨供述するけれども、通常はそうであるとしても、前記の如き特殊事情がある場合には、保証のある債務を先に消滅せしめたとしても別段異とするに足らず、また弁論の全趣旨によれば前示被控訴人水門の債務中一〇〇万円を超過する部分については、前示貸付契約成立前から存在した無保証の債務を控訴人側の経理の都合上約定書の債務額のうちへ繰入れたものと認めるに難くないから、前示一〇〇万円の支払によつて被控訴人松本らの保証債務を消滅せしめたとしてももと通りであつて、控訴人の利益が特に害せられることもない筈である。

ところで(証拠)によると、被控訴人水門は前示一〇〇万円を支払つた際、漸次約定書に基く借用金である旨記載した被控訴人主張の金額七〇万円の約束手形一通(甲第二号証)を振出し控訴人に交付したことを認めることができ、この事実は恰も控訴人の主張の裏付けとなるかの如き観があるけれども、前認定の被控訴人水門が一〇〇万円を支払うに至つた事情に、前掲田路義一、被控訴人両名本人及び控訴人代表者の各供述の一部を綜合すると、被控訴人水門は甲第二号証約束手形の振出により被控訴人松本らの保証債務の残存を承認する意思は毛頭なく、一方控訴人側としても、かかる趣旨で右手形を振出さしめたものではなく、専ら被控訴人水門との関係において残債務支払の方法として振出さしめたものであることを推認するに難くないから、甲第二号証は、いまだもつて前認定を覆し、控訴人の主張を肯認するに足る証拠となすに足りない。

また前示一〇〇万円支払後も約定書が返還されなかつたことは当事者間に争がないけれども、約定書に基く被控訴人水門の債務がなお残存する以上、右事実をもつて直ちに、被控訴人松本らの保証債務もなお残存しているからだという証拠となすに足らず、却つて弁論の全趣旨(特に控訴人組合の帳簿が整頓されていないと認められる点、例へば前掲一、七五五、〇〇〇円の各貸付日時について釈明を求むるもこれを明らかにしえず、前記貸付契約成立前から存在した九二万円の債務までも貸付契約成立後の新規貸付であるかの如く誤つた主張をしている点)に徴すると、控訴人はたまたま被控訴人松本らの保証印ある約定書が手許に残存しているところから、十分事実も調査せずに、同人らの保証債務がなお残存していると主張しているものと考えざるをえない。甲第三号証も前示認定に対する反証となすに足らず(甲第三号証は昭和三四年一月一九日の控訴人組合理事会の議事録で「小川参事より債務者水門繁雄に対する田路理事の連帯保証等を承認されたき旨詳細説明全員異議なく承認した」旨の記載があり、田路も理事として右議事録に署名しているが、これのみによつて田路や被控訴人の保証責任の残存を認めることは困難であり、特にその後昭和三五年一月一八日の当審口頭弁論において田路に対する訴が取下げられている点(取下の理由は全く不明)を考え合せると猶更である)、他に前示認定を覆すに足る証拠はない。そうすると被控訴人松本の前示約定書に基く保証責任は前示一〇〇万円の支払により昭和三二年八月二七日に消滅したものと認めなければならないから、同人の保証責任がなお存在することを前提として同人に対しその履行を求むる請求は理由がない。

四、被控訴人水門が昭和三二年八月二七日前示約定書に基く借用金である旨明記した金額七〇万円、支払期日同年九月三〇日その他控訴人主張の手形要件の記載ある約束手形一通を振出し、控訴人に交付したことは前認定のとおりで、被控訴人本人の供述中右認定に反する部分は措信できない。そうすると同被控訴人は右手形振出の原因債務が前示新旧いづれの債務であるとを問わず、該手形金額を前示約定書に基く借用金として承認し、右支払期日にその支払を約したものと認めなければならないから、控訴人に対し右金七〇万円及びこれに対する支払期日後である昭和三三年四月一日から完済に至るまで約定損害金の利率の範囲内である年三割六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があること明らかである。

五、以上の理由により、控訴人の本訴請求を全部棄却した原判決中、被控訴人水門に対する請求を棄却した部分は失当として取消すべく、被控訴人松本に対する請求を棄却した部分は正当であるからこれに対する控訴人の本件控訴は棄却。

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